デンタルラボラトリーNEWS~歯科技工所の一日とこだわり~

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有限会社永松デンタルラボラトリー

歯医者さんにはよく行くけれど、「歯科技工所」に行ったことがある人はほとんどいないのではないでしょうか。
しかし、実はあなたのお口の中で活躍している被せ物や入れ歯、マウスピースなどの多くは、歯科技工所で一つひとつ手づくりされています。

このブログでは、普段は表に出てこない歯科技工所の役割や、どんな想いで仕事に向き合っているのかを、少しじっくりお伝えしていきます。
「歯医者さんに行くのが少しだけ楽しみになる」そんなきっかけになれば幸いです。

1.歯科技工所ってどんなところ?

歯科技工所は、簡単にいえば「オーダーメイドの歯をつくる工房」です。
歯科医院から送られてくる型(印象)やデータ、噛み合わせの情報、色調指示などをもとに、次のようなものを制作しています。

クラウン(被せ物)

ブリッジ

インプラント上部構造

入れ歯(義歯)

矯正装置

ナイトガードやスポーツマウスピース など

一つとして同じ口はありませんから、私たちがつくるものはすべて「世界で一つだけ」のオーダーメイド製品です。
既製品を当てはめるのではなく、患者様一人ひとりの骨格・噛み合わせ・生活習慣に合わせて調整し、ミクロン単位で形を整えていきます。

2.歯科技工士の仕事は「医療」と「ものづくり」の融合

歯科技工所で働くのは「歯科技工士」という国家資格を持った専門職です。
歯科技工士の仕事は、単にモノをつくる職人仕事ではありません。医学と工学、そして美術的な感性が必要とされる、非常に奥の深い世界です。

医療としての視点

私たちが扱うのは、単なる「噛むための道具」ではなく、人の体の一部となる補綴物です。
そのため、次のような点を常に意識しています。

どのくらいの強度が必要か

将来、歯や顎に負担がかからない形になっているか

清掃しやすい形になっているか

患者様の年齢や全身状態、生活背景に合った構造か

「長く健康に使えるかどうか」という視点で、一つひとつの症例に向き合っています。

ものづくりとしての視点

一方で、歯科技工は精密なものづくりの世界でもあります。
石膏模型を削る角度、金属の厚み、セラミックの積層、研磨の仕上げ方など、わずかな違いが「フィット感」や「噛み心地」に大きく影響します。

たとえば、クラウンがほんの少し高いだけでも、噛んだときに一か所だけ強く当たってしまい、顎関節や筋肉の違和感につながることがあります。
逆に低すぎると、噛み合わせが崩れて他の歯に負担がかかる原因になります。

「見た目」と「噛み心地」と「長持ち」の三つを同時に満たすために、細かな調整を繰り返す。
そこに歯科技工士の腕と経験が生きています。

3.歯科医院と歯科技工所の連携

患者様の目に触れるのは歯科医院ですが、その裏側では歯科医師と歯科技工士が綿密に連携しています。

歯科医師が患者様のお口の中を診査・診断

型取りや咬合採得(噛み合わせ記録)、写真撮影などを行う

その情報が歯科技工所に届けられる

歯科技工士が設計・製作

完成した補綴物を歯科医院へ納品

歯科医師が口腔内で装着し、最終調整を行う

この流れの中で、歯科医師と歯科技工士は、電話や写真、場合によっては対面で打ち合わせを行います。

この患者様はどんな職業か

食事のスタイル(硬いものをよく食べるか、甘いものが多いか)

審美的な要望(とにかく自然な白さが良いのか、周りの歯の色に合わせたいのか)

こうした情報を共有しながら、「この方にとってベストな選択は何か」を一緒に考えていきます。

4.デジタル化が進む最前線の現場

近年、歯科の世界でもデジタル化が急速に進んでいます。
歯科技工所でも、従来の手作業に加え、CAD/CAMシステムや3Dプリンターを導入するところが増えています。

CAD/CAMによる補綴物製作

CAD/CAMとは、コンピューター上で歯の形を設計し、専用のミリングマシンでブロック状の材料を削り出すシステムです。

精度の高い設計が可能

均一な品質を保ちやすい

設計データの保存・再利用ができる

これにより、従来のワックスアップや鋳造といった工程が短縮されるだけでなく、安定した品質の補綴物を提供できるようになっています。

3Dプリンターの活用

3Dプリンターは、主に模型やテンポラリー(仮歯)、サージカルガイドなどの製作に使われています。

微細形状の再現

複雑な構造物の造形

トライアンドエラーの効率化

従来なら手作業で数時間かかっていた工程が、デジタル技術によってスピーディーかつ安定的に行えるようになり、より多くの患者様に高品質な技工物を届けることが可能になっています。

ただし、デジタルがどれだけ進んでも、最後は人の「目」と「手」が欠かせません。
最終的な形の微調整や艶出し、色合わせは、歯科技工士の経験と感覚に支えられています。

5.自然な「歯の色」を再現するという難しさ

前歯の被せ物などは特に、「どれだけ自然な色にできるか」が大きなポイントになります。
歯の色は単純な白一色ではなく、透明感・内部の色・表面の艶・細かな模様などが複雑に重なり合っています。

歯科技工士は、次のような情報をもとに色を再現していきます。

シェードガイドを用いた色調指示

口腔内写真、顔貌写真

隣在歯の特徴(透明感が強いか、黄みが強いか、グラデーションの有無 など)

セラミックを何層にも重ね、光の透過や反射を計算しながら焼成を繰り返すことで、「その人だけの色」を表現していきます。

たとえ記録上は同じシェードでも、患者様の肌の色や唇の色、表情によって、見え方は微妙に変わります。
そのため、歯科技工士は、モニター上のデータだけでなく、全体のバランスをイメージしながら制作を進めていきます。

6.「噛める」だけでなく「人生を支える」道具をつくる

歯科技工物は、単に食べ物を噛むためだけのものではありません。

硬いものをしっかり噛めるようになることで、食事の楽しみが戻る

入れ歯が安定することで、外出や会話が億劫でなくなる

前歯の見た目が整うことで、人前で笑う自信が取り戻せる

そうした変化の一つひとつに、私たち歯科技工士の仕事が関わっています。

歯科医院から「この患者様、とても喜んでいましたよ」という声をいただくと、直接お会いしたことがなくても、その方の笑顔や生活を思い浮かべて、胸がじんわり温かくなります。
これが、この仕事の一番のやりがいかもしれません。

7.安全・品質への取り組み

歯科技工所は医療の一端を担う場所として、安全性と品質管理にも力を入れています。

使用する材料のロット管理、保管方法の徹底

作業工程ごとのチェックリスト運用

技工物ごとの製作記録・写真の保存

感染対策(消毒・洗浄・作業環境の整備)

患者様に直接お会いすることはなくても、「自分の家族のお口の中に入るとしたら、胸を張って勧められるか」という基準で仕事をしています。

8.これからの歯科技工所の役割

少子高齢化やデジタル化が進む中、歯科技工所を取り巻く環境も大きく変化しています。

高齢者の増加に伴う義歯や修復物のニーズ

インプラントや審美歯科の普及

在宅・訪問歯科診療との連携

デジタルデータを活用した遠隔地との協働

こうした変化の中で、歯科技工所は単なる「外注先」ではなく、「医療チームの一員」として、より積極的に情報を共有し、提案を行っていくことが求められています。

私たちとしても、歯科医師や歯科衛生士の方々と連携しながら、患者様にとって最善の選択肢を一緒に考えていける存在でありたいと考えています。

9.最後に──見えないところで支えるものづくり

歯科技工所の仕事は、患者様の目に触れることはほとんどありません。
しかし、お口の中で毎日何百回、何千回と行われる「噛む」という動作を支え続けています。

おいしく食事ができること

思いきり笑えること

自信を持って人と話せること

これらはすべて、当たり前のようでいて、実は歯やお口の健康があってこそ成り立つものです。
その一端を担えることを誇りに、これからも一つひとつの技工物に心を込めて向き合っていきます。

もし今後、歯医者さんで被せ物や入れ歯のお話が出たときには、
「この奥には、歯科技工所の人たちの手仕事があるんだな」と、少しだけ思い出していただけたら嬉しく思います。

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